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自己啓発セミナーという問題


[プログラムの概観]

[第一段階詳細] [第二段階詳細] [第三段階詳細]

[その問題]


自己啓発セミナーでは、第三段階において、 それまでの段階を受講をして感動してハイになっている参加者に、 深く考える隙を与えないで、 巧妙な物言いをしたり、さまざまなプレッシャーをかけたりして、 エンロール、すなわち勧誘活動を行なわせることがある。

エンロールは、参加者の周囲の人々にとっては、非常に奇異に見えることだろう。 たとえば、突然、ある団体の実施する内容も定かでないセミナーを、 とにかくいいものだから受講して欲しいとか、 金は出すから受講してくれとか言われたりする。 また、夜中や早朝、仕事場にまでしつこく電話をかけてきたり、 おしかけてきたりして受講をすすめることもある。 これでは、受講生が非常に怪しい団体に弄ばれているように見えても不思議ではない。

かくして、自己啓発セミナーは、時には「洗脳」、「マインド・コントロール」、 「カルト」、「ねずみ講」、「マルチ商法」、 「悪徳商法」などと過去に批判されてきた。

自己啓発セミナーの問題とは、一体何なのかを考えてみよう。


苦情の種類

セミナーに参加して何らかの被害を被ったという人たちの主張は、 ほとんどの場合以下のようなものである。

最後の項目には、多少補足が必要であろう。 自己啓発セミナーでは、「人生は選択」であり、自分の現実は自分で創り出しており、 自らに起こってくることは、すべて自分の責任であると考える。 また、すべての人には、ダイヤモンドのような本質があり、 非常に大きな可能性が広がっていると考える。 しかし、現実には、大した可能性が開花するわけでもなく、 セミナーに参加したからといってうまくいくわけではない。 ところが、「人生は選択」であるという論理に従えば、うまくいかないのは、 その人自身が自分で選んだことであるということになってしまう。 そのため、セミナーが終わってしばらくたち、醒めてくるに連れ、 うまくいかない自分を自分で責めてしまったりすることがあるのである。

それから、被害とはやや異なるが、「参加してしばらくたったら、 効果がなくなってしまった」という話は非常によく聞かれる。

参加者自身よりも、むしろ、その周囲から苦情が聞かれることが非常に多い。 これは、自己啓発セミナーに参加するということは、 自分自身が何らかの被害を被る以上に、 周囲に迷惑をかけることになるということを意味しているのだろう。 なお、典型的な苦情は、具体的には以下のようなものである。


問題点の検討

被害の主張などを分析すると、自己啓発セミナーの代表的な問題は、 「インフォームド・コンセントの欠如と参加の強制」、「精神的ダメージ」、 「ビリーフ・システム」、「エンロール」の主に 4 つに集約できると思われる。 ただし、実際には、これらは 4 つの個別の問題ではなく、 相互に関係しあっているものであることに注意されたい。

具体的に一つ一つ説明しよう。

インフォームド・コンセントの欠如と参加の強制

自己啓発セミナーでは、多くの場合、原則として、 「具体的」にどんな実習を行なうかは秘密にされている (ただし、一部の主催者は、そんなことはないと強く主張する場合がある)。 しかも、その上で、すべての実習に対して、 全身全霊で取り組むように強くプレッシャーがかけられる。 これは参加に関して、通常のセンスでは、事実上、 選択の自由が大きく制限されていることを意味している。

精神的ダメージ

エンカウンター・グループなどのグループ・セラピーにおいて、 参加者が精神的にダメージを負う危険性があることは、 昔から指摘されているところである。 自己啓発セミナーの参加を契機に、 精神的な病を発症したという報告もいくつか存在している。

グループ・ダイナミックスの複雑さは、 時には主催者にさえ思いもよらないような突発的な心理的衝撃を発生させ、 参加者にダメージを負わせることがある。 思いもよらないような言葉を他者から浴びせられることで、 深く傷ついてしまう人は存在するし、 ましてや、大勢の参加者で取り囲んで一人を責めたりすればなおさらであろう。 自分の問題を認識して反省することは、問題解決への糸口になることもあるのだが、 物事には程度というものがあり、その程度が見えにくく、 時にはコントロールが効かなくなるのが、グループ形式の欠点でもある。

このことは、インフォームド・コンセントが十分行われれば、 自分には精神的にきついと思われるセッションには、 参加者の側で参加しないようにすることで、 ある程度までは回避できるかもしれない。 また、主催者側で、あまりハードなセッションを行なわないように自重することも重要であろう。 しかし、特に自己啓発セミナーの場合、インフォームド・コンセントの欠如や、 全身全霊で参加するようにプレッシャーをかけられることとも関係して、 参加者の側で対策を行なうことは困難である。 また、主催者の側は、エンロールの問題とも関係するのだが、 セミナーの「効果」を上げることに執心し、 安全性よりは、むしろ実習はよりハードに、 そしてより盛り上げる方向に偏重する傾向があると想像される。

ビリーフ・システム

自己啓発セミナーの主なビリーフ・システムの問題点を、 わかりやすくするために多少誇張して表現すれば、 人生は選択であるとする「(極端な)自己責任主義」、 事実と解釈が異なり心の持ち方次第でどうにでもなるという「心万能主義」、 (状況をあまり考慮しないで)互いに貢献しあう「(非限定的)互助主義」、 全力で冒険することをよしとする「蛮勇」などがあるだろう。 また、既出の項目とも大いにオーバーラップするが、過去や思い込みに とらわれない「世間常識の軽視」も大きな要素である。

これらを総合して組み合わせたエッセンスを、単純に表現すれば、 『問題は「心の持ち方次第」で解決できる。 さあ、「みんなで協力」し、「夢中」になって、「力まかせ」に何かに取り組もう』 ということになる。

世の中、確かにこれで解決することが可能な問題も、存在しないわけではない。 また、心の持ち方次第で問題が解決できるという話や、 大勢で何かに向かって一丸で立ち向かうという熱狂的なイメージに、 心ひかれる人もたくさんいることだろう。 最近、中小企業で自己啓発セミナーが流行しているのには、 このような事情も大きいのかもしれない。

しかし、この単純な「おとぎ話」が、必ずしも成功につながるわけではないということは、 よく考えればすぐに理解できる。 当たり前だが、世の中というのは、非常に複雑で、成功というのは、実力、運、努力、 その他、 人間にはなかなか見通すことのできない数々の要素によって決まってくるのである。 いや、そもそも、成功とは何かという問題もあるだろう。 人は、時には、このような当たり前の複雑な世界に疲れ、 単純でわかりやすい答えというものを求めてしまうのかもしれないのだが・・・。

なお、「心の持ち方次第」という考え方は、時には、 真実から目をそらすための方便ともなり、 問題が存在していてもそれを無視をするために使われる可能性もあるので、 大いに注意が必要である。 また、本来は大きな可能性がひろがっている「はず」の自分が、 実際には大したことができないとなったときには、 その責任は自分自身にあることにもなってしまい、 自分自身を責めてしまうことにもなりかねない。

それから、「自己責任主義」は、自己啓発セミナーの問題を語る上で、 非常に重要な要素である。

たとえば、セミナー会社は、エンロールは受講生が「自主的」に やっているものであると主張することがある。 これは、つまり、受講生は「自分から」何人エンロールするかを「宣言」 しているという立場を取っているということである。 また、エンロールの過程で問題が発生しても、 それはしばしば「受講生自身の責任」に帰結されてしまう。 更に、セミナーの内容が楽しめないことも参加者自身のせい、 セミナーに参加して効果がなくても参加者自身のせいに されることもある。

このように、極端な「自己責任主義」は、時にはセミナー会社 自身の責任を回避するための道具としても用いられることがあり、 注意が必要である。

そもそも「自己責任」を主張するセミナー自身の「責任」は一体どこにあるのだろうか という問題は十分考えてみる価値があるだろう。 たとえば、セミナーの「自己責任」レトリックに従って論じれば、 セミナーのまわりに起こってくる問題は、実はすべてセミナー自身が源となって、 セミナー自身でわざわざ選択して創り出してきたものであるということにはならないだろうか。

エンロール

「日常の中でセミナーの成果を活かす方法を学ぶ」コースであると説明して、 エンロールを行なう第三段階を開催している場合、 それは単なるインフォームド・コンセントの欠如というよりは、 むしろにだましていると言えるのかもしれない。

いわゆる精神世界系のワークショップと、自己啓発セミナーの 類似点は少なくない。 しかし、それらから、自己啓発セミナーを際立たせているのが、 エンロールの存在である。

セミナーを受講してハイになっている受講生に、 深く考える隙を与えずに勧誘活動を行なわせるという、 このエンロールは、自己啓発セミナーの最大の問題であろう。 エンロールの存在によって、 単に受講生が自分で勝手にセミナーに参加をしてひどい目にあったと主張する以上の、 何か大きな問題が発生し、しかもそれが拡大することになる。 当然のことながら、周囲の人たちからの苦情が最も多いのが、 このエンロールである。

アイデンティティの危機に対する不安のようなものが人間にはあるのだろう。 短期間で人間のキャラクターに大きな変容を及ぼし、 かつその理由がわからないようなものには、 恐怖や警戒心が呼びさまされるのは自然なことだろう。 このため、受講生に新規の参加者を獲得させるというシステムは、 受講生の人間関係に少なからぬダメージを与えることは想像にかたくない。

この問題は、単純にセミナー主催者側にばかり問題があるわけでもないことには、 十分注意したい。 きっかけは、確かにセミナーのプログラムにあるのだが、 勧誘された側の対応いかんでは、 しばしば人間関係が二度と修復できないくらい大きな問題に発展することがあるのである。 本来であれば、主催者側には、このような点を踏まえ、 日常生活において参加者が齟齬を来さないように十分な配慮を行なうことが、 望まれるところではあるのだが (現実にはむしろ逆の方向性を追求していると思われてならない)。 セミナー会社や、ハイになっている受講生にも、 この問題の解決をはかることができない以上、 受講生の周囲には大いに負担がかかることになるのだが、 なんとかそちらのサイドで善処していくように努力するしかないのだろう。

しかし、一体、エンロールというのは、 自己啓発セミナーにとってどのようなものなのだろうか?

自己啓発セミナーは、 特殊なビリーフ・システムを体験的に学習するためのプログラムである。 また時には、日常生活では得られることの少ない類の感動を、 受講生に与えてくれることもある。 しかし、このプログラムは、あまりリピーター向けには作られていない。

たとえば、受講料が極めて安かったとしよう。 それでも、第一段階を頻繁に何十回も受講したいという人は、 一体どのくらいの割合でいるのだろうか? この問題を考える上で、アシスタントの実状は示唆的である。 無償のアシスタントをつとめるということは、逆に言えば、 参加費を支払わずにセミナーに複数回参加することが可能になるということである。 しかし、ほとんどの人は、アシスタントを経験するにしても、 何回か、そしてせいぜい 1 年程度でやめてしまっているという状況がある。 もちろん、長期にわたって勤め続ける人もいないわけではないが、 これは受講生全体から見れば極めて少数である。

このようなリピーター向けではないというプログラムの特性により、 自己啓発セミナーが、少なくとも営利を目的とするならば、 少ない参加回数で十分な金額を参加者から集める必要がでてくる。 また、更に、参加回数が少ないということは、 常に新規の参加者を獲得しつづける必要があるということである。

このため、諸刃の剣のように、より参加者が感動して夢中になり、 よりエンロールが成功することを目指して、 プログラムには(成功するか否かは別として)より過剰な方向へと 「改良」が加えられていくことになるのである。

また、仮に無料でセミナーを提供したとしても、 あまりリピーター向けではないプログラムであるために、セミナーを実施し続けるには、 おそらく常に新規の参加者を一定数供給しつづける必要が出てくることになるだろう。 結局、その場合にも、一体どうやって参加者を集めるのかという問題に直面する。 現実問題として、セミナーに限らずセラピー関係の需要は決して多くない。 例えば、普通に宣伝しているだけで、十分に参加者をたくさん集めることができて、 食べていけるようなセラピー専業者は、極一部であり、かなりの実力者だけである。 参加者の数の問題は、仮に安価にセラピーを提供したとしても、 実はそれほど状況は変わってこない。 1 回数千円(会場費)程度の安価なセラピーを、 どちらかと言えば趣味や非営利で実施している人たちでさえも、 十分な数の参加者には恵まれていないことが多いという状況がある。 セミナーやセラピーを自分で主宰したい、自分がセラピストやトレーナーになりたい、 人々に自分の味わった感動を提供したい、 自分の心の隙間を埋めるために誰かのためになりたいなどとと願う人たちが、 参加させたがっている数よりも、 自分からセラピーやセミナーを求めてくる人の数はずっと少ないのである。 十分な需要もないところに、実力なしに、しかも営利として無理矢理供給しようとすれば、 押し売りになってしまうことは明らかであろう。

このように、エンロールというのは、営利組織としての自己啓発セミナー、 そしてその主力商品であるプログラムの、 非常にコアな部分と関係してくる問題であると言えるだろう。


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