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Robert Todd Carroll
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大規模自己啓発セミナー (Large Group Awareness Training programs)

大規模自己啓発セミナー(Large Group Awareness Training 略して LGAT)とは、 参加者が自分のすべての潜在能力を発揮するのを妨げているものを発見することを助け、 より満ち足りた人生を送るために、数時間から数日の強烈な教育を、 数十から数百の人々を対象に行なう個人開発のトレーニングのことである。 また、 LGAT のプログラムは、会社や公共機関のためにも開発されてきた。 これらの場合には、管理運営スキルの向上、問題解決、組織全般の強化、 酒や薬を過剰摂取する従業員たちといった不朽の問題への対処に重点が置かれてきた。 LGAT のグルたちは、人々がより創造的で知性的になったり、 精神的にも経済的にももっと健康的になるような方法を知っていると主張している。 とりわけ連中は、人と人とのコミュニケーションが、 自己評価や他者との人間関係において果たす役割といったものに重点をおいている。

LGAT のグルたちは、参加者が幸せでなかったり、 満たされた人生を送っていない理由を知っていると主張する。 連中は、誰もが同じ原因でうまくいっていないと仮定していて、 それゆえ、一つのアプローチが何にでも効くと思っているようだ。 何人かの LGAT グルたちは、テレビや本を利用している。 その他の連中は、ホテルの舞踏場でセミナーを開いたりしている。 一部の連中は、コマーシャルによって本やテープを売り、 それを通じて大衆が自己実現と成功への道へと到達できるように導いている。

米国海兵隊では、「全可能性を発揮した人間になる」のに数年を要すと考えているが、 セルフ・ヘルプのグルたちは、数時間から数日でそれが可能になると思っている。 これらのグルたちは、みんなで金太郎飴 (one-size-fits-all cookie cutter: 一つのサイズで何にでも合うクッキーの型抜き) のようなアプローチをセルフ・ヘルプに用いているように見える。 ただし、estや、 ランドマーク・フォーラム(Landmark Forum)や、 神経言語プログラミングや、 トニー・ロビンス (Tony Robbins: アンソニー・ロビンス)のセミナーなどのプログラムの創始者たちは、 独自のものを使っているようではあるが。

主張の視覚化、自己催眠、 その他の自己実現を達成するためのテクニックなどもあるにはあるが、 ほとんどの LGAT のプログラムは、コミュニケーション・スキル、 そして思考や行動に対する言葉の影響といったものに重点がおかれている。 そのようなプログラムを指導している人物たちは、 当然、そういったスキルにも長けているはずである。 つまり、トレーナーというものは、モチベーターなのだ。 連中は、そのパワフルなコミュニケーション・スキルを、 次のようなことを信じさせるのに使っているに違いない。 (a) トレーナーは、人間がその可能性を発揮するのに何か役に立つような価値のあることを知っている。 (b) その価値のある知識というものは、参加者に短い時間で伝えることができる。 (c) 参加者は、それが主観的なものに過ぎないかもしれないが、 具体的な利益(人間関係の改善とか、自分自身がよくなったという感覚のような) を短い時間で得ることができる。 (d) 今のところ参加者は、上級のトレーニングに契約した人たちを待ち受けている 素晴らしい喜びや満足のほんの一部を味わったに過ぎない。 要するに、トレーナーというものは、単なる教師のようなものではなく、 販売員だということだ。 連中の主な仕事は、参加者により多くのサービスを購入させること、 すなわち、より多くのコースを契約するように動機付けることなのだ。 参加者にもっとたくさんのコースを取るように説得しようとする場合を除いては、 トレーナーたちが参加者をあまりフォローアップしないという事実は、 彼らの主たる関心事は人々がより満ち足りた人生を送れるように導くことではないということを示している。 トレーナーたちは販売という業務もこなさなければならないのだ。 連中は、自分が本当に助けた人々の数ではなく、 勧誘したりトレーニングを施した人々の数に応じて給料が支払われているのである。 彼らの興味は、参加者に配慮することにはなく、 参加を呼びかけることにあるのである。

個人開発トレーニングのグルたちというのは、 新聞の 3 行広告を出したり、 支払い不履行によって所有権が失なわれた財産を購入したりすることで、 何百万ドルもの金を手に入れることができるような秘密の方法を提供しましょうと 語りかけるコマーシャル・タレントのようなものだと指摘する意見もある。 その本当の価値というのは、新聞広告を出したり、 支払い不履行財産を購入することにはない。 そんなことをするのは、 コマーシャル・タレントがコマーシャルに出る代わりに、 実際にそれをやってみるようなものだ。 これらの本当の価値は、アイデアを他人に売ることにあるのである。 もしも、トニー・ロビンスやランドマーク・フォーラムのために働いているトレーナーたちが、 自分の真の潜在能力を効果的に金を儲けるといった方向に発揮できたとしたら、 委託販売じみた仕事なんかをやっているわけがあるだろうか? 連中が何かブレイクスルーを起こせるかもしれない莫大な時間を、 どちらかと言えば少ない金のためにグルのために働いたりするだろうか? そんなことがあるわけがない。 もしも連中が自分の真の可能性に到達することを望むなら、 独立して自分でトレーニング・プログラムをはじめるはずだろう。 そして、実際多くの連中がそうしてきたのだ。 (神経言語プログラミング(NLP)の項目を参照のこと。 NLP では、独立したり追い出されたりしたトレーナーたちが、 大きな金銭的問題になってきた。 そして、トニー・ロビンスやその他の何人かのように、 優秀な生徒たちがその真の潜在能力を独自に開花させたりしないように ライセンスと適当な法的組織が作られたのである。)

しかしながら、個人トレーニングのプログラムは、 単純に次のような理由によっても成功するだろうと想像される。 (a) 参加者は自分自身をよりよくしたいと強く動機付けられている。 (b) トレーナーは、参加者に自分自身というもの、 そして自分の人生や人間関係などといったものを振り返らせる。 このような動機や振り返りによって、自覚的な洞察や、 新たにそのような洞察を得ようという努力がもたらされる。 また、参加者は、「契約の土地」を求める数多くの他人に取り囲まれていることで、 エネルギーや希望を与えられる。 要するに、ヒューマン・ポテンシャルのグルたちが売っている主な商品というのは希望なのである。 別にこれ自身が悪いものでもなんでもないことは明らかだろう。 我々はみな希望を必要としている。 希望なくして、将来の計画を作る意味はない。 希望なくして、人間関係を作ったり、目標を設定する意味はない。 それゆえ、大規模自己啓発セミナーに参加することも、自分の進む道を見つけたり、 自分の目標を達成したりするような希望をふくらませる限りにおいては、 いいことだろう。 間違った希望でさえ、全く希望がないことに比べれば、 いいことだと言えるかもしれない。

恐れは、希望の前に立ちふさがる大きな障害の一つである。 よって、ヒューマン・ポテンシャルのトレーナーたちは、 成長の影に潜んでいる恐れを参加者が乗り越えられるように援助する必要がある。 たとえば、失敗することを恐れるあまりに、 目標を設定するのをやめている人は、 何かを成し遂げようという希望すら持たないこともある。 つまり、何にも挑戦しなければ、失敗することもないというわけだ。 同様に、心の傷を癒そうともしないくらい他人から拒絶されるのを恐れていたら、 問題のある人間関係が改善されることもないだろう。 人として何か非常に意味のある存在になりたいという望みを持ったなら、 失敗や拒絶や嘲笑や恥などに対する恐れを乗り越える必要があるのだ。 恐れによって麻痺している人は、何かを成し遂げるには無力である。 成し遂げるように力づけるには、恐怖を乗り越えるよう、 そしてその結果希望を抱くように力づけることが必要だ。 最も直接的な力づけの方法とは、 その人たちが最も恐れていることは実際には起きていないし、 たぶん今以上に悪いことは起こりそうにないばかりではなく、 むしろ一番ありそうなことというのは、 現在よりもよくなるということだと悟らせることだろう。 またその他の方法は、自分自身の信念が成功を妨げていて、 その信念は望めば置き換えることができるということを悟らせることだろう。

このことを一番よく知っていたのは、 1970 年代と 1980 年代に成功をおさめた LGAT グルの一人である レオ・バスカリア(Leo Buscaglia) だろう。 彼は、本、レクチャー、テレビ番組などによって、 すべての鍵になっているのはであるという考え方を広めた。 ニーチェやバートランド・ラッセル、そして B・F・スキナーたちが、 たとえば恐れるものを嗜好するような心理的な作用について述べた概念などを、 彼は大衆化した。 バスカリアは「あなたの敵を愛しなさい」などと言っていた。 「愛は敵を倒すだろう!」 しかし、あなたの敵というのは誰か別な人間のことではない。 あなた自身の恐れる気持ちこそが、あなたの敵になるのだ。 恐れを抱きしめよ、そうすればそれは消え去るだろう。 人間関係に失敗した場合、起こりうる最悪のこととは一体何か? それは、人間関係の終わりだろう。 そのことを延々と考えることも、自分の中にひきこもることも、 ひきさがることも、あきらめることもできる。 あるいは、そのことから学び、成長し、発展し、 将来よりよい人間関係を築くための練習とすることもできる。 それはあなた次第なのだ。 ストア派の人たちがいうように、 何が自分にできて、何ができないのかをよく知ることだ。 自分の力では変えられないものを変えようとしてはならない。 他人の言動をコントロールすることはできないが、 それらに対する自分の態度や感情の反応をコントロールすることはできる。 つまり、あなたは挑戦しない限り、成功することもない。 挑戦して失敗しても、それでもまだ成功することはできる。 それは自分次第なのだ。 そして、これをあなたに納得させるのは、 ヒューマン・ポテンシャルのグルやトレーナー次第なのである。

estランドマーク・フォーラム神経言語プログラミング といった自己成長プログラムは (サイエントロジーのような カルトでさえも)、 数多くの「成功」したという事例を示すことができる。 そして、自分たちのプログラムが「うまくはたらく」ことを宣伝できる。 何百もの(何千ではないが)満足した顧客の代表として、 ジョン・デンバー、ジョン・トラボルタ、オノ・ヨーコ、シェール、 ヴァレリー・ハーパーなどの数多くの有名人を提示することができる。 est、NLP、ランドマーク・フォーラム、サイエントロジーを受講した後で、 その連中がよい人生を送っているように多くの人々には見えるだろう。 哲学や心理学の分野において研究の訓練を受けたり、 思弁や経験的研究の本質的な部分についてよいセンスを持っている人たちは、 これらのプログラムの疑似科学的な 性質に気づくことだろう。 セルフ・ヘルプのプログラムにおいては、 証言が有効でないことは知られている。 グルたちやその信奉者たちが、 大きな因果を誤った推測 を行なっていることも知られている。 このようなプログラムの成功に、 主観的な評価確信によるバイアス願望に基づいた思考回帰の誤認組織的な強化 などが果たしている役割にも気づくだろう。 これらのプログラムの主催者たちによって、次のような調査は、 ほとんどないしはまったく行われていないことが知られている。 (a) 自分たちの手法がどのように有効かを立証するといった彼らの根拠に関するテスト。 (b) 何をもって「成功した」トレーニングと見なすのかという明確な評価基準。 (c) 「失敗」、あるいはプログラムを受けてぼられたと感じたり、 傷つけられたと感じた人たちに関する記録の保存。

これらのプログラムの支持者たちが主張しているような プログラムの動作原理に関する証明が欠けていたり、 多くのトレーナーがセミナーやより上級のそれに参加者を勧誘することにあまりにも熱中しているにもかかわらず、 たくさんの参加者たちがこういったプログラムから大きな利益を得てきた。 不幸にして、利益を得たと感じるものたちの多くは、 そのようなプログラムから他の人たちは全然利益を得ないかもしれないということを理解しないのだ。 彼らの健康的な友人や家族には、 連中の熱狂が洗脳されたことによるもののように見えるかもしれない。 彼らの熱中は、不自然で不格好なものに見えるのだろう。 もしも、彼らがプログラムを受講する前に不安定だったりすれば、 「ブレイクスルー」を通り越して「ブレイクダウン」したように見えることさえあるかもしれない。

関連する項目 est火渡り(firewalking)ランドマーク・フォーラム(Landmark Forum)神経言語プログラミング(neurolinguistic programming)


参考文献

Barry, Dave.  "Altered States"  in The Miami Herald, April 13, 1997. (Humorist Dave Barry takes Peter Lowe's SUCCESS 1997 12-hour success seminar featuring Anthony Robbins, Elizabeth Dole, Rabbi Harold Kushner, Brian Tracy, Lou Holtz, Jim Morris, Peter Lowe, Pat Riley, Dr. Ted Broer, George Bush, and Dan Kennedy.)


訳者コメント

ここで、著者が大規模自己啓発セミナー(Large Group Awareness Training) と呼んでいるものは、日本で言うところのいわゆる「自己啓発セミナー」とは、 ややニュアンスが違う。 Newsweek の 2000 年 1 月 10 日号(日本語版 2 月 2 日号)で、 Daniel McGinn がレポート(この記事は Web で読める) しているような実に広い意味での自己啓発セミナーである。 種類としては、癒し系、精神世界系、ニューエイジ系、 ビジネスマン向け啓発系などなどを含む。 また実施形態にしても、直接セミナーやワークショップを行なうものだけではなく、 書籍などにも及んでいる。 たとえば本で言えば、きこ書房、三笠書房、大和出版、 PHP 研究所、 サンマーク出版、 VOICE、ディスカバー 21、平河出版、春秋社、 アニマ 2001、 etc. といったところが出しているようなものを想像してもらえばいいだろうか。

これらは、それぞれ見た目は非常に多彩で異なっている。 たとえば、日本ではあまり知られていないが、 この文書で取り上げられているアンソニー・ロビンス(邦訳も何冊かある) のセミナーでは、まさにショーマンといった感じのロビンスが感動的に語り上げ、 時にはハートフルな場面もあったり、あるいはロックで踊りまくったり、 とにかくガンガン盛り上げる。 クライマックスでは板を素手で割ったり、火渡りをしたり (これが、 Skeptic's Dictionary の自己啓発セミナー関係の項目の、 「関連する項目」に「火渡り」が入っている理由である)、 空中ブランコをしたりする。 その様子だけ聞くと、日本で言うところのいわゆる自己啓発セミナーとは、 かなりイメージが違うことがわかる。 しかし、見た目は多彩で異なっているが、 本質的な部分では大いに共通項があるんじゃないのかというのが、 著者の指摘しているところである。

ところで、日本で自己啓発セミナーと呼ばれているものは、 ライフスプリング(Lifespring)社の創設メンバーの一人であった ロバート・ホワイト(Robert White)が日本ではじめたライフダイナミックス (後に会社名はアーク・インターナショナルに変更) というセミナーを起源としているものが多い。 なお、ライフスプリング社は、アレクサンダー・エヴェレット(Alexander Everett) のマインド・ダイナミックス(Mind Dynamics)と、 化粧品マルチのホリディ・マジック(Holiday Magic) のウィリアム・ペン・パトリック(William Penn Patrick) のやっていたリーダーシップ・ダイナミックス・インスティチュート (Leadership Dynamics Institute: 略して LDI) の 4 人の主要なトレーナーがはじめた会社であった。 ちなみに、アメリカの多くのセミナーも、 マインド・ダイナミックスと LDI を起源としていると言われている。 なお、ライフダイナミックスのセミナー、 そして現在日本で行われているセミナーの多くも、 主に 3 段階のセミナーで構成されているが、 これはライフスプリングのものとその内容も含めてよく似ている。 この Skeptic's Dictionary に将来追加の予定されている数々の項目の中に、 ライフスプリングも入っているので期待したいところである。

Copyright 1999
Robert Todd Carroll
Last Updated 10/22/00(original)
日本語化 05/08/00(最終改訂 11/06/00)
翻訳: 小久保温

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