これは、東北大学工学部放射線工学研究室の当時助手であった早坂秀雄氏による、 水平面に対し右回転と左回転するジャイロの大気中での落下時間の違いを測定した 実験場を見学したときのレポートです。
もともとは、東北大学の学内電子掲示版 bbms (Bulletin Board and Mail System)の < mathematics > というカテゴリに投稿したものです。 これはそれに加筆訂正したものです。
当時(1994年暮れ)、 U-CAS という磁力反発による浮遊回転するコマのおもちゃが < mathematics > で話題になっていました。 この時に、「そう言えば東北大学には早坂という人がいて、右回転と左回転する ジャイロの質量差を測った実験を Phys. Rev. Lett. に投稿したはずだ。 あの追試はどうなったのでしょうか?」というような話が出ました。 そして、「他の追試はうまくいっていないようだ、それで早坂先生は別な方法で 新しい実験をしたようだ。 ところがそのことをアナウンスしたのに誰も見に来ないとこぼしていた。」 という話が出て、「じゃあ、 bbms で見学者を募って見に行こう」ということに なったのですが・・・
これはその時のレポートです。
by 小久保 温
まず、具体的なレポートに入る前に、早坂助手の研究に関して、簡単に紹介します。
九州大学の inspec で調べたところ、早坂秀雄氏による AntiGravity に関する
研究は、実は 1978 年以前にまでさかのぼります。
東北大の出版物と思われる Technol. Rep. Tohoku Univ. の 1978 年のものに
反時計回り(左回転)するジャイロスコープに反重力が
発生するという論文が掲載されています。
翌年の同雑誌には、更にその理由を考察した論文が掲載されているようです。
そこには、リーマン・クリストッフェル・テンソルに付加項を加えることで反重
力を説明しようという思想が既に現れているようです。
今回の見学の際に、早坂氏はリーマン・クリストッフェル・テンソルに階段関
数の微分項を付け加えることで、回転する物体の質量を重くしたり軽くしたりす
ることができると思っているということをレクチャーされたわけですが、その原
点は意外と古いようです。
大変話題になった回転するジャイロの質量を測定した論文は 1989 年に Phys.
Rev. Lett. 63 (1989) 2791 に掲載されました。この論文では、ジャイロを
化学天秤の上で真空に引いた容器中で回転させ、その重さを測定した実験につい
て報告されています。
この論文によると、左回転のジャイロスコープでは回転速度によって重さが変
化しませんでしたが、右回転のジャイロは軽くなったとなっております。しかも、
その軽くなる度合いは角速度に比例するというものでした。あまりに衝撃的な内
容のためか、この論文は Letter であるにも拘らず、掲載されるまでに 1 年半
以上もかかっています。ところで、この論文では何故か、十年前の Technol.
Rep. Tohoku Univ. で述べていたのとは全く逆に右回転のジャイロの方が
軽くなったとされています。
この実験について書かれたもので一般向けのものには、火の玉研究家として有 名な大槻義彦氏による「右回りのコマは軽くなる?」があります。これは『続間 違いだらけの物理概念』パリティ編集委員会編(パリティ・ブックス 丸善 1995 年)に収録されています。
この実験はその後追試が行われましたが、早坂氏によれば、その半分以上は再
現しないという結果が出たようです。しかし、(ここ数字がちょっと記憶があや
しいので、そのつもりで聞いてね。) 2 、 3 割は肯定的な反応があった
そうです。
その中の一つに、航空工学系の人からの報告に、昔ジャイロの落下実験を行っ
たら、右回りと左回りでその速度に違いがあったというがあったのだそうです。
そこで、早坂助手は前の実験の内在していた問題をふまえて、ジャイロの落下
実験をすることにしたようです。
追試の一つに日本の計量研究所で行なわれたものがあり、これについては、
前掲『続間違いだらけの物理概念』パリティ編集委員会編(パリティ・ブックス
丸善 1995 年)に、精密実験の方法と結果が「右回りのコマ、軽くならなかっ
た!!」という題で掲載されています。
この論文には他の実験の論文も引用されてますので、興味のある方はこれをお
読み下さい。
徳間書店のショッキング・サイエンス・シリーズと呼ばれるシリーズでは、
窪田登司氏による『アインシュタインの相対性理論は間違っていた』をはじめ
として、様々な現代物理学を誤解した人々による本が出版されています。
この『「相対論」はやはり間違っていた』は、窪田氏の『アインシュタイン
の相対性理論は間違っていた』の続編であり、様々な人々による相対論を誤解
した論文が掲載されています。
早坂氏もこの本に寄稿していて、光速度を測定してみたら、不変にならなかっ
たという実験(早坂氏によるものではない)に言及しています。
が、よく考えてみると、早坂氏は反重力を説明しようとするときに Einstein
の重力理論をベースにし、付加項を加えているわけです。
光速度が不変でなく、絶対静止座標系が存在するとする理論と Einstein
の一般相対性理論は矛盾します。早坂氏の付加項程度の改変では、この矛盾を
吸収することはできそうにもないのですが?
また当時、早坂氏は助手であったのですが、この本では東北大学工学部教授と 書かれていました。
詳細は以下を御覧下さい。
また、Speculations in Science and Technology に載ることになった論文の
アブストラクトもあります。
東北大学では、退官する教官は記念講演を行ないます。早坂氏(当時、助教授)
の退官記念講演のタイトルは「鉛直軸のまわりの右回転によって生じる反重力と
重力の対称性の完全な破れに関する研究」でした。
この時に配られたレジュメには、前記の Phys. Rev. Lett. に掲載
された論文、今回見学した実験施設で行なわれた実験の論文、ロシア科学アカデ
ミー主催の重力の国際会議 "Problems of Space, Time and Gravitation"
での発表の要約が記載されていました。
重力の国際会議での発表は詳細についてはわかりませんが、回転に対して非対 称な重力の理論に関するもののようです。レジュメによると「ド・ラムのコホモ ロジー定理を底空間上の4次元角運動量に適用すると必然的に(回転に対して非 対称な重力が)導出される。」とのことです。
ところが、今回の見学の際にレクチャーされた理論は、ロシアの重力の国際会
議で発表されたものだとおっしゃっておりましたが、回転に対して左右対称な重
力場しか生じない理論でした。
ド・ラムのコホモロジー定理を適用すれば、回転に対して左右非対称な重力を
発生させる理論が作れるが、まだその定式化には成功していないということなの
でしょうか??
『「相対論」はやはり間違っていた』の続篇。今回の本は相対論を理解していて、 その問題点を指摘している文章と、相対論を誤解していてただ文句を言っている文章 が両方載っていて、そのスタンスが妙に好対照でおもしろい。帯のあおり文句「相対 性理論への断固たる訣別を綴った10の手紙」を書いた人は本当に中を読んだのだろう か?
それはともかく、この本には早坂秀雄氏にコンノケンイチがインタビューするという 企画が掲載されている。タイトルは「ジャイロの落下実験が「相対論」に突きつける もの」。ちなみに早坂氏の肩書は「元東北大学教授」となっていて、間違っている。 その内容は、このページで紹介しているものとほぼ同じ。詳しくはもうちょっと ちゃんと読んでから載せます。
ちなみに、早坂氏は徳間書店から近刊予定のフィリップ・M・カナレフの『それでも
アインシュタインは間違っている』の監修をされているらしい。
また、自身の研究とロシアの研究を紹介するという『反重力の科学』(仮題)の出版
準備中ということで、精力的に活動中の模様。
今回見学した実験施設は、ジャイロを落下させて重力加速度
を測定するものでした。
実験器具は人間の身長の約 2 倍程度の透明な筒でした。筒のてっぺんに電
磁石と電極が取りつけられていて、ここにジャイロを内蔵した独楽のような物
体を電磁石の力でくっつけます。
くっついている間は、電極が独楽のような物体に接しています。この電極か
ら電力を供給することによって、独楽に内蔵されたジャイロが回転します。
そして、電磁石への電力供給をカットすることで、独楽は落下します。
落下中に 3 つの測定ポイントを通過します。各測定ポイントでは、レーザー
とセンサーが設置されていて、独楽の先端が突っ切ると、レーザーが遮断され
てセンサーがそれを感知します。
各測定ポイントを突っ切った時間から重力加速度を測定します。ちなみに、
この実験は大気中で行われております。
これが、実験の全貌です。
実験の結果、やはり右回転のジャイロの方が左回転のジャイロよりも重力
加速度が小さくなったように測定されたそうです。
実験は、今年 (1994年) の 7 月から 9 月まで行われたようです。
いつ測定しても右回転の方が左回転のものよりも重力加速度が小さいという
結果がでるのですが、日によってその値が大きく揺らいでいて、その理由は
わからないそうです。
潮汐力のせいじゃないかとわたしは思ったのですが、早坂助手によると、
その影響は小さく、見せていただいたグラフのスケールでは有為な違いを生ま
ないと言われていました。
ちなみに、重力加速度の減少の割合は、以前に Phys. Rev. Lett.
に投稿した論文で述べられている実験と無矛盾だそうです。
ただし、以前の実験とは異なって、ジャイロの回転数を変えたらどうなるの
かは、測定していないようでした。
そして、この実験は現在 Phys. Rev. Lett. に投稿中だそうです(当時)。
結果的には
この実験のアブストラクトが Speculations in Science and Technology に載る
ことになったようです。
また、 1996 年 6 月にロシアで行なわれた
New Ideas in Natural Scienceという国際会議の
III Gravitation and Overlapping Technology
のセッションで早坂氏自身ではなく、共同研究者が講演されたそうです。
そして、重力の偶奇性は 100 % 破れていると述べられ、このようなことは
Einstein の理論の枠組みでは決して現れないことを強調されていました。
また、弱い相互作用における偶奇性の破れとの類似性も強調されており
ました。(弱い相互作用の方は、本当は P だけじゃなくて、 CP の破れ
じゃないのかなあ。)
そして、反重力が発生したと述べられておりました。
わたしの感想としては、電磁相互作用の影響は本当にちゃんと取り除けて
いるのだろうか? という感じです。何しろ、電磁石で独楽を吊って、電磁石の
On/Off で落としているわけだし、独楽に内蔵のジャイロにはモーターが
入っているわけですから。
さらに天井には電線が走っていました。ちょっと、その辺が気になりました。
で、その後、早坂助手がソビエト(ロシア?)での重力の会議で発表した という理論を御説明いただきました。それは、一般相対論の運動方程式中の リーマン・クリストッフェル・テンソルに、トポロジカルな項を付加して、 それによって重力の偶奇性を破るのだそうです。式はこんな感じです。
μ μ μ dH Γ → Γ + θ ―― νλ νλ ν λ dx
ここで、 Hは階段関数です。 H の x 微分はどうも角運動量ωのδ関数の
ような形になるようです。で、θというテンソルに偶奇性を破る効果がある
のだそうですが、論文も見せていただいたのですが、このテンソルの露な形が
書かれていなくて、よくわかりませんでした。
どの辺がトポロジカルなのかも全くわかりませんでした。
ちなみに、この話は、重力の会議で話したところ、満場の拍手があったと 述べておりました。
重力の偶奇性の破れの話と弱い相互作用の CP の破れの類似性を強く主張 されていたのですが、重力の方の話は、相互作用ラグランジアンを書くことに 成功していないようで、類似していると言っても、どう類似しているのかにも 疑問が残りました。
この後は、おそらく研究の動機に関する話だったのではないかと思います。
内容は、まず卍と逆卍の話でした。
早坂助手によれば、卍の起源はチベットだそうですが、実はもっとさか
のぼって紀元前何千年か何万年かのメキシコの文明だそうで、ムー大陸の
神官の方が書かれたパピルスにも卍が書いてあるそうです。
(ムー大陸と言えば、最初にその存在を主張した自称元英国陸軍大佐
ジェイムズ・チャーチワードに習って粘土板が定番だと思ったんだけど (^_^;)
ちなみにチャーチワードによると、ムー大陸は 1 万 3000 年前に太平洋に
沈んだことになっている。)
そして、卍の意味は実はよくわかっていないのだとおっしゃられたので、
私が一般的な解釈であるところの「卍は太陽のシンボルではないのですか?」
と質問しました。
すると、そうじゃないんだと言われて、次のような説明をされました。
(あれ? 実はよくわかっていないという主張はどこへ?)
卍が左回転を意味し、水に対応し、ネガティヴで、スタティックなものを 表わしているのだそうです。また、逆卍が右回転を意味し、火に対応し、 ポジティヴで、ダイナミックなものを表わしているのだそうです。
そしてナチスが逆卍を採用したのはポジティヴなエネルギーを意味している からだとおっしゃっておりました。(そうじゃなくて黒魔術的な意味合いが あったような気がするんだけどなあ。)
回転することにこだわられているようだったので、「薔薇十字のマーク
( LaTeXとかの ¥oplus みたいなやつ)に関してはどう思われますか?」
と質問したら、サイマル出版から出ている「神秘学大全」を読むといい
だろうと勧められました。
(何でも核物理屋と科学ジャーナリスト(「アインシュタインの相対性理論は
間違っていた」の窪田さんも科学ジャーナリストだったなあ)の人が書いたんだ
そうです。)
そして、古代人は何かそういうものを知っていたんだと強く主張されて
おりました。
(ちょっとわたしには、具体的にどういうものかは理解できませんでした。
これは純粋に日本語の問題です。)
と、まあ、そういうわけで、重力の偶奇性の破れを測定するつもりになった のだそうです。
この一連の話を聞いて思ったことは、「反重力って何?」ということでした。
「重力相互作用に asymmetry があること」イコール「反重力」ではないはずです。
だいたい、仮に本当に重力と反対方向に力が働いたとしても、何でそれが「(反)
重力」と呼べるのでしょうか? 重力と関係があることが本当にわかっているの
でしょうか? 重力とは全く関係ない知られざる相互作用の可能性だって、ない
とは言えないんじゃないのだろうか?
そういうわけで、「反重力という言葉を使うのはよくないんじゃないですか?
重力に asymmetry があるというのが正確な表現では?」と言ったのですが、
本意はわかっていただけないようでした。どうしても、反重力にこだわって
いらっしゃるように見えました。
いずれにせよ、物理にしろ、オカルトにしろ、おもしろい話が聞けたことには 間違いがありません。オルガナイズして下さった方に感謝いたします。
どうも早坂氏は UFO の研究家でもあるようで、退官後は右回転するジャイロを 搭載した UFO を建造しようとされているとの噂です。